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糖尿病専門クリニックにおける電子カルテ・院内検査管理ソフトの使用経験
                           
丹水社 肥満と糖尿病 平成17年2月増刊号掲載論文

糖尿病専門クリニックにおける電子カルテ・院内検査管理ソフトの使用経験                                 中石滋雄 土井まゆみ 池田玲伊子 野崎恭子

はじめに
電子カルテは、チーム医療の遂行・カルテ開示への利用や、診療情報のデータベース化において、その有用性が期待されている。しかしながら、その導入を阻む要因として、医師のITに関する知識や技術の問題とともに電子カルテがまだまだ高価であることがあげられる。さらに、最近増加しつつある糖尿病専門クリニックにおいては、多くの電子カルテが院内検査データを電子化して保存し利用する機能をもたないことも問題となる。当院では、安価かつ高機能であることから最近急速にシェアを伸ばしつつある電子カルテ"ダイナミクス"((有)ダイナミクス、(株)日立ソフテック)を平成12年秋から導入し、検査管理システムソフト"メックネットケアラボ"((株)アークレイ)を併用して院内検査データの電子化の問題点を克服した。本稿では、当院のシステムを紹介し、運用上の利点・問題点に関して考察してみたい。

当院のシステム構成
当院のシステム構成を図1に示す。ハードウェアは、ファイルサーバー1台(OS;Windows
NT server)クライアントPC7台(OS;Windows 2000)で構成される。クライアントPCは、診察室・受付・検査室・フットケアルーム・栄養指導室・治験管理室の6箇所に配置されている。"ダイナミクス"のデータベースはファイルサーバーに格納されており、各クライアントPCからは参照用プログラムを使用してアクセスする。"メックネット ケアラボ"は、検査室に専用PCを配置しこれに格納している。ヘモグロビンA1c測定装置GV(東ソー)・生化学検査装置ドライケム3500(富士フィルム)・自動尿分析器オーションミニ(アークレイ)から発生した検査データを"メックネット ケアラボ"は収集しデータベース化すると同時に、"ダイナミクス"に送り込む機能をもつ。同時に、"メックネット ケアラボ"はフロッピーディスクを介して検査指示を検査センターに電子的に送りだし、結果を電子的に受け取りデータベース化する機能を有する。


当院のシステム運用
当院での診療の流れを紹介する。再診患者が来院しうけつけ登録を行うと、ポップアップで当日の指示が浮き上がる。(図2)当日の指示は、予約簿に基づき、前日に医師が入力する。この指示にしたがい、事務職員は患者を検査室に誘導する。検査室で検査技師が当日の検査指示を“ダイナミクス”に入力すると、この情報が“メックネット ケアラボ“に送られ、検査管理ソフトは検査機器ごとに検査順を割り付ける。(図3)この検査順と、検査機器の検査順が一致していることを確認して検体を機器にかける。検査が終了すると、データは自動的に”メックネット ケアラボ“にとりこまれ、さらに電子カルテに転送され、検査歴画面に表示される。(図4
この間、検査技師は患者を問診し得られた情報を電子カルテに入力する。栄養士が栄養指導を行った場合や、看護師がフットケアを行った場合にも得られた情報をその場ですぐに入力し確定する。(情報の発生源・発生時入力)(図5)これにより、医療スタッフは直前までの情報をすべて把握した上で、自身の仕事を開始することができる。診察室においては、医師の向かいに栄養士がPC入力アシスタントとして着座する。(図6)栄養士は、所見入力を行なうとともに、随時、栄養相談を行う。診察所見の入力はすべて日本語で、患者の前にもモニターがあり、患者はすべての入力内容を閲覧可能である。“ダイナミクス”には、当日カルテ印刷機能・当日医療費明細印刷機能があり、これによって、カルテ開示・医療費開示が同時に達成される。


考案
当院では、電子カルテ使用の目的をチーム医療・カルテ開示・診療内容のデータベース化に限定しており、現在のところ、病診連携は念頭においていない。その理由は、病診連携における電子カルテの利用は、一診療所で実現できることではなく、また、その取り組みには大変な知識と労力を必要とするため、当院には荷が重いと考えるためである。
中島(文献1)は、糖尿病診療のネットワーク化をのべた論文のなかで、電子カルテの有用性として以下のものをあげている。1.かかりつけ医制度における糖尿病診療の一貫性(非専門医と専門医)、2.他診療科との連携における糖尿病診療の一貫性、3.時間的、空間的な糖尿病診療の一貫性(転居など)、4.チーム医療による糖尿病診療支援、5.糖尿病EBMへの応用、6.カルテ開示や糖尿病教育への応用、7.自己モニター値の自動表示、8.生活習慣病としての長期治験への対応、9.糖尿病領域の緊急安全性情報の表示、10.オンライン症例検討会への応用。1-2、5、10に関しては医療機関同士の連携を必要とするもので、残念ながら実現に必要なインフラが整備されていない。3については、同じ“ダイナミクス”を使用している医療機関同士であれば実現可能である。4のチーム医療に関してはまさに院内ネットワークによる電子カルテの利用がきわめて有用な点である。当院での具体的な経験から、日本語入力ならびに発生源・発生時入力を徹底することにより、1.医療スタッフは、自分が担当する直前までのデータを参照することができ、患者情報の共有度が著しく向上する。2.医療スタッフは、データの意味を自分で判断する必要があるため、不断の勉強を要求され、医療レベルが向上する。の2点が期待できることを指摘したい。6のカルテ開示にも当院のシステムはきわめて有用である。診療中に入力内容を患者はすべて閲覧することができ、希望する場合、当日の診療カルテならびに医療費明細をすべて打ち出すことができる。チーム医療が医師とコメディカルの情報の共有であるならば、カルテ開示は医師と患者の情報の共有であるということができ、基本的には同じコンセプトに属するものと考えられる。7の自己モニター値の自動表示に関しては、当院では、血糖管理ソフト“メックネットSMBG ビューワー”により、SMBGを実施しているすべての患者70名の自己血糖測定データを電子的に管理している。また、一部の患者でインターネットによる血糖データのやりとりを試みている。8の長期治験への対応に関して、対象者のスクリーニングにおいて電子カルテはきわめて有用で、スクリーニングにおける治験コーディネーターの業務は著しく減少し、また、もれがなくなる。治験依頼者や治験コーディネーターのカルテ閲覧も容易となり、治験管理の精度が向上する。9.副作用が発生した場合、対象薬を使用している患者の氏名・連絡先の一覧表を作成できる。
他に、院内検査管理ソフトの併用の効果を考えてみると、1.データがオンラインで電子カルテに入力されるため、検査技師の労力が減少すること・誤記の危険性が消失すること、2.タイムラグがないため検査後スムーズに診察を開始することができることなどがあげられる。
それでは、糖尿病専門クリニックが電子カルテを導入するための問題点に関して検討してみよう。大きく分けて、1.技術の問題、2.費用の問題、3.院内検査結果のオンライン化・データベース化の問題があろう。1の技術の問題としては、院内LANの構成・メンテナンス、電子カルテのメンテナンスの2点があろうが、一般のコンピューターに詳しくないユーザーにとっては院内LANは専門家に任せるほうが無難であろう。電子カルテのメンテナンスに関しては、電話サポートなどもあり、自身で管理することも可能であろうと思われる。事実、当院では、上記の体制をとっている。2の費用の問題であるが、当然、1や3と関わる事になる。パワーユーザーが自身でメンテナンスを行えば、出費は小さなものとなるが、技術的なサポートをうけ、検査管理ソフトの併用を行えば、支出は増加している。ただし、当院のシステムで考えてみても、ダイナミクス・メックネット ケアラボの併用は、一般的なレセコンの導入費用と同等か、それよりも安価なくらいである。これは、なんといっても、“ダイナミクス”の導入費用が他のメーカーの電子カルテに比較してきわめて安価であることによる。
3の院内検査結果の問題は、これからの糖尿病専門クリニックにおいては問題となることと考えられる。電子カルテを使用しながら、結果が10項目にもなる検尿結果を手入力する手間はいかがなものであろうか?各社の電子カルテは、院内検査結果の電子化への対応はきわめて遅れている。これは、技術的に不可能というわけではなく、ニーズが大きくないと判断され放置されているからである。アークレイ社の“メックネット ケアラボ”は、院内検査機器メーカーが開発したソフトで、データを検査機器から取り込み、これを電子カルテに送り込む機能を持つ。院内検査管理ソフトの持つ重要な機能として検査順管理機能がある。総合病院が検体をバーコード管理するのに対し、院内検査を迅速結果報告するためには検体ごとに患者に検査順を割りつけ、検査機器の表示する検査順番号と検査管理ソフトの表示する検査順番号を一致させて検体処理を行うのが最も誤りがすくなく、スタッフの負担も小さいと考えられる。診療所でありがちな、検査の入力後の中止(たとえば、排尿が不可能なため尿検査が中止となる場合)や、検査順の前後(たとえば、検尿に手間取り、次の患者が先に採血となる場合)がしばしば発生するが、メックネット ケアラボはこれらに対応し簡単な操作で変更をすることができる。


まとめ
市販電子カルテ“ダイナミクス”検査管理ソフト“メックネットケアラボ”を併用して以下のことを達成した。
1.チーム医療におけるスタッフ間の医療情報の共有
(医療情報の発生源・発生時入力)
2.カルテ開示・医療費開示
3.HbA1c(HPLC法)・検尿・生化学検査データの電子カルテへのオンライン入力
4.医療情報のデータベース化
電子カルテは、チーム医療・医療内容開示にきわめて有用なツールである。将来においては、医療機関連携への 応用が期待される。

参考文献
1. 中島直樹:セキュリティを重視した糖尿病診療のネットワーク化.プラクティス
19(5): 525-530,2002